構成・CG素材制作



全体にメリハリをつけつつもエモさを感じられるような作品に

まず、本作はエモーショナルな作品にしたいと考えていたので、オリジナル楽曲を依頼する際に「エモさと壮大さを感じるものを作りたい」というイメージを共有した上で制作していただきました。ただし、楽曲イメージはお伝えしましたが、歌詞については完全にお任せしています。その後、デモが上がってきた段階で楽曲に合わせて構成と内容をざっくりと決めていきました。冒頭に一瞬の短いカットを入れたり、ワンカットに見えるようコラージュをする演出にこだわったりと、全体にメリハリをつけつつもエモさを感じられるような作品に仕上げようと考えました。

また、ルックに関しては、人の記憶や懐かしさを感じさせるような色味をイメージしています。ただ、厳密に言うとフィルムではなく、あくまでもそういった質感の映像を目指したいなと。色彩は感じるけれど少し褪せていて、ローファイ感のあるノイジーなものにしたいと考えていました。

撮影後の流れとしては、まず加工の前段階としてPremiereで何も加工せずにカットだけを繋いだオフライン編集を行なっています。

その後、タイムラプスでよく見るような花がだんだんと成長して咲いていく様子や、街が発展してビルが次々とできあがっていく様子などの素材が欲しくなり、そういった部分はCGで作り補っています。



制作したCG素材の一部

街が発展し、ビルが順々に建っていくようなCG部分は四角形の羅列で構成されており、映像にうまく馴染ませることでビルに見せている。



ビルのCG素材




花のCG素材




木のCG素材




「いまを振り返る」をテーマに

実写とCG素材のマッチング

世界観を統一するために素材を馴染ませる作業は重要な工程

実写やCG素材などさまざまな素材を組み合わせて構成しているため、各素材の色味を合わせて馴染ませる作業が必要になります。本作に限らず、イラストのMVやCG背景を作る場合などでも、世界観を統一するために馴染ませる作業は非常に重要な工程になります。

基本的に調整するのは、「露出」と「色温度」です。色温度の値はマイナスに振ると青みがかり、プラスに振ると赤みがかります。今回は全体を通して青が際立ちつつも温かみのある色合いを意識しました。

もうひとつ重要なのが「フェード」という機能で、黒を灰色に寄せることで完全な黒を作らないようにする調整です。要は、コントラストを抑えるイメージで、これにより褪せた雰囲気を演出できます。また、奥にあるもののフェードの値を上げ、灰色がかって見えるようにすることで立体感を出すことができます。

カメラや収録形式の違う素材同士のマッチングでも、基本的にこの3項目を中心に調整しています。地道ではありますが、ひとつひとつの素材に対して手作業で調整をしていき、できる限り色味を揃えていきます。

さらに、この段階で「ボケ」も加えていきます。普段、僕たちが見ている実際の視界というのは全てにピントが合っているわけではなく、逆に全てにピントが合っていると違和感を覚えます。

また、手前の物体をボカすのはよくある手法ですが、僕の場合は真ん中にある被写体自体にも若干のボケを加えることが多いです。この作品でも、

「Crossphere Bokeh」というプラグインを使用し、数値でいうと1〜2といった、本当にわずかな量のボケを足しています。






基本的な色味は、After Effectsの「Lumetri Color(Lumetri カラー)」内の「Temperature(色温度)」「Exposure(露出)」「Faded Film(色あせたフィルム)」の数値をコントロールすることで調整する(赤枠部分)。サイトウさんの場合は、「Saturation(彩度)」「Shadows(シャドウ)」「Blacks(ブラック系)」を調整することも多い。



サイトウさんおすすめプラグイン

After Effectsでレンズのボケや被写界深度をシミュレーションできるプラグイン。




ボケ感の演出には「Crossphere Bokeh」を使用。「映像がリッチになり、遠近感をつけるのにも一役買うので、重要なファクターです」とサイトウさん。







映像全体のグレーディング

色味はしっかりしているけれどレトロで情緒を感じるような映像に

素材ごとの調整が大まかに揃ったら、全体に対してのグレーディングをさらに上からかけて整えていきます。目指す方向性としては、色味はしっかりしているけれど、どこかレトロで情緒を感じられるような映像で、フィルムらしさとは少し違うかもしれませんが、そういったイメージに仕上げていきます。

また、最近は基本的にLogで撮影をするようにしています。Logで撮っておくと情報量が多くなり、グレーディングした際に画質が劣化しにくくなります。彩度を上げるとバンディングや必要のないノイズが乗りやすいですが、Logで撮っておけばその後の調整にも融通が利きます。逆に、Logで撮影していない素材の扱いは非常に面倒で、調整の段階でLogに寄せていく作業が必要になります。要は、彩度がはっきりしている素材を灰色っぽいLogの状態に合わせていく作業ですね。

全体の方向性が決まったら、LUTを当てます。LUTとは、Lumetriカラー内で適用できる色のプリセットのようなもので、デフォルトで用意されているLUTもありますが、僕の場合はそれらをもとに調整したLUTをいくつか保存しています。『刻刻』の場合もいつも使っているLUTを少しだけ調整したものを当てています。


タイムラインの一部。LUT01は冒頭から30秒までの間、LUT02は作品全体を通して適用されており、サイトウさんが調整したLUTが2種類使用されていることがわかる。




LUTはLumetriカラー内「Input LUT(LUTの入力)」のプルダウンから選択。本作ではカスタムしたLUTが使用されている。「LUTはプリセットを調整したり、素材サイトで配布や販売されているものを参考にカスタマイズするのがおすすめです」とサイトウさん。




映像の質感

自身でグレインノイズを作ることで面白い仕上がりになる

色味をある程度決めた後は、質感を作っていきます。ここが制作において最も楽しかった工程でもあります。

ローファイ感やアナログ感、温かみなどを出すために、まずはグレインノイズを加えていきます。自分の場合は、何にでも使っているくらいグレインノイズを上に乗せることが多いんですが、難しいことは特にしていません。

グレインノイズを加える方法はいくつかあり、ひとつ目はAfter Effects内のエフェクトにあるノイズを使用する方法で、粒状のノイズが乗り色をつけることも可能です。ふたつ目はストック素材を購入、もしくはダウンロードして使用する方法で、場合によってはそういった素材を使用するときもあります。3つ目は自身でグレインノイズを撮影して使用する方法です。

After Effects内のエフェクトを使うと、どうしてもエフェクト感が出てしまいます。その点、撮影素材でグレインノイズを作ると面白い仕上がりになるし、オリジナリティも出るのでおすすめです。

また、ノイズに加えてビネットも入れています。ビネットには、周辺を暗くする効果があり、Lumetriカラーにあるビネットの項目で数値を調整するだけで、昔のフィルム写真のような雰囲気を演出することができます。





オリジナルノイズ素材の作り方

誰も気づかないような細部にこそオリジナリティは宿る

グレインノイズの撮り方はとても簡単で、カメラにキャップをした状態で(レンズをつけなくてもOK)、そのまま録画を行うだけです。その際、ノイズを多く出すためにISO感度を上げるといいですね。ISO感度とは、暗所で撮影する際にセンサーの感度を上げて明るく映すための設定です。

右画像のようにISO感度が低い場合はほとんどノイズが乗っていませんが、ISO感度を上げていくとノイズが強くなり、粒も大きくなっていきます。その状態で暗所での撮影をするだけで、ノイズ素材ができあがります。言われないと気づかれないような細かい部分ですが、こういった細部にこそオリジナリティが宿るのではないかと考えています。





ノイズの乗せ方

撮影したノイズ素材にLumetriカラーを適用。露出などの明るさに関わる数値を調整し、灰色に近い色にする。





ノイズ素材を映像の上に乗せる。タイムラインにて、描画モードを「Overlay(オーバーレイ)」にすることで、映像の色への影響を抑えることができる。








各工程における変化

素材そのまま




素材同士を馴染ませる  露出/色温度/濃淡/ボケなどの要素をある程度合わせる




全体のグレーディング




質感を作って完成




試行錯誤できることこそが質感作りの楽しいところ

褪せた雰囲気やノイズを入れる手法はクライアントワークでもよく使っています。質感に関して細かい部分まで「こうしてほしい」と指示されることは滅多にないため、自身の判断で入れていることが多いです。

実際に僕らが見ている視界も、そこまで綺麗で繊細かつノイズがないわけではなく、目にはちらつきが見えているはずです。だからこそ、ノイズを加えた方がむしろ自然に見えるのかなと。自然なものにより近づけていく感覚で、その部分を少しだけ強調して分かりやすくしているイメージです。

また、ノイズを重ねる順番を変えるだけでも質感は変わります。一番上のレイヤーにノイズを乗せる場合と、ノイズの上にブラーや色収差のエフェクトをかける場合とでは、印象も全く違ってくるし、素材単位でノイズを乗せることもあります。そういった試行錯誤ができるのも、質感作りの楽しいところですよね。



オリジナルライトリーク素材の作り方

こだわっている作品だからこそ見たことある素材は使いたくない

グレインノイズに限らず、自身で撮影したオリジナル素材を持っておくことは非常に有用です。

ライトリークと呼ばれる光のフレア素材の作り方も簡単で、カメラのピントを外してレンズの前にダイヤモンドカットされたガラス玉のようなものを置き、そこにライトを当てるだけで作ることができます。下にカラーライトを置いて撮影すれば、自然なグラデーション素材ができますし、動画の場合は埃が舞っているのが見えることもありますが、それすらも味になります。

こうした自作素材を使用することで唯一無二のエフェクトを作ることができますし、こだわっている作品だからこそ「これ、見たことあるな」という素材は使いたくないんですよね。そういった意味でも自分のストック素材を持つというのは、オリジナリティを出す上で非常におすすめです。



作り方①

光はゆらゆらと動かす



カメラレンズ前に多面カットされたガラス玉や半円形のプリズムフィルターを置き、手前からiPhoneなどで簡易的な光を当て、動かしながら撮影する。






作り方②

壁面にカラーライトを下から当て、様々な色の素材を撮影する。After Effects上で映像素材の上に重ね、スクリーンやオーバーレイなど好みの描画モードを選択。これによってノスタルジーな雰囲気を醸し出すことができる。










レトロ&フィルムルック表現を考える

「懐かしい」記憶の正体とは?

記憶の曖昧さとローファイな質感が繋がるからこそ懐かしさを感じる

最後に、レトロやフィルムルックの作品が今なおトレンドである理由、求められている理由について考えてみます。

まずひとつは、いつの時代でもレトロ的なものがリバイバルされる流れの存在が大きいかと思います。つまり、懐かしさを感じるものや昔のものへの憧れです。

また、デジタルが発展し過ぎてしまった反動から、こういった粗いものが恋しくなるという理由もあるのではないかと思います。必ずしも綺麗でなければいけないわけではないんです。むしろ、綺麗過ぎると素材をそのまま並べただけに見えてしまうこともあります。そこで、何かしらの効果を加えてリッチに見せようと考えたとき、レトロに振るというのが選択肢として上がりやすいのかもしれませんね。加えて、温かみを感じさせる効果にも紐付いているのかとも思っています。

「思い出」というものは、明確かつ綺麗で繊細には思い出せないものだと思うんです。どこかモヤがかかっているような記憶の曖昧さと、ノイズがかったローファイな質感が繋がっているからこそ、人はそういったところに懐かしさを感じるのではないかと僕は考えています。